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税務バトルから学ぶ 審判所の視点 ザ・ジャッジ

隠蔽・仮装に該当するか? 相続人が申告漏れの株式をノートにまとめた理由

2023/04/19

 平成29年11月、Aの死亡により相続が開始。相続人はAの配偶者である請求人および長男。2人は相続税申告の税務代理を税理士法人に依頼。同法人のJ税理士は2人に対し、相続財産を把握するためA宛の郵便物を調べるとともに、証券会社から株式に係る残高証明書を取得して提示するように指示した。

 請求人は、自宅に届いた配当通知書などの郵便物を確認して把握したA名義、Aの実父(請求人の義父)であるK(平成12年8月に死亡)名義、Aの実母(請求人の義母)であるL(平成13年8月に死亡)名義および長男名義の各株式について、銘柄、株式数、配当金額などを2冊のノートに記載していた。

 請求人は、平成31年3月25日付で義父名義の株式について、同年4月10日付でA名義の株式について、株主名簿管理人の信託銀行に対して管理口座を請求人名義の口座へ振り替える手続きを行った。また、同年4月1日付でA名義の株式について、単元未満株式の買取りを求める手続きを行った。

 請求人は長男と共同で相続税を期限内に申告。なお、当初申告において申告した株式はいずれもA名義の株式だった。

 原処分庁の調査担当職員は、令和元年9月から相続税調査を行い、請求人に対し、2冊のノートに記載があるにもかかわらず、J税理士に株主名簿管理人が発行する所有株式数証明書等が提出されず、相続財産として当初申告書に計上されなかった株式がある旨を指摘。令和2年1月24日付で、本件相続税について過少申告加算税および重加算税の賦課決定処分を行ったことで争いとなった。争点は、請求人に「隠蔽し、または仮装し」に該当する事実があったか否か。

ノートは備忘メモ的なもので第三者への提出目的ではない

 請求人は、「当初申告の時点で各株式を相続財産として認識しておらず、J税理士からAの郵便物を調べ、取引がある証券会社から残高証明書を取り寄せるよう指示を受けたため、それに従って証券会社から取得した残高証明書のすべてをJ税理士に提出した」、「株式に関する資料やノートをJ税理士に提出しなかったのは、J税理士に渡した残高証明書にすべて記載されていると考えていた」などとして、「各株式の存在を隠蔽する意図はなかった」と主張した。

 一方、原処分庁は、「請求人自らが銘柄、株式数、配当金額等を2冊のノートに記載しながら、相続税の申告書に計上されなかったA名義等の株式について、Aの相続財産であることを十分認識していたにもかかわらず、J税理士に各ノートを含む本件株式に係る資料等を渡さず、本件株式を計上しない申告書を作成、提出させたのであるから、請求人には「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があった」などと指摘した。

 これに対して審判所は、「請求人はJ税理士から株式について証券会社から残高証明書等を取得して提出するよう指示を受け、そのとおりに証券会社から残高証明書等を取得して提出しており、本件株式についても申告書に計上されていると思い込んでいた可能性等が否定できない。また、各ノートは記載状況からみて、請求人の単なる備忘メモ的なものとして使用されていたと考えられ、請求人がJ税理士を含む第三者に提出する目的で作成したものではないと推認できる」、「請求人は相続税調査の際、担当職員に自らノートを提出したことなどに鑑みると、ノート等の資料をJ税理士に提出しなかった行為について、隠蔽の行為そのものであるとか、当初から過少申告をすることを意図した上で、過少申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動に該当すると認めるに足る事情はなく、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はないといわざるを得ない」と判断した。 (令和4年6月24日裁決)

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